Introduction

Nothing, it seems, exists except as part of a network of interactions. (Gilbert & Epel, 2008)

 地球上のすべての生命体は、様々な生物間相互作用のネットワークの中で存在しています。中でも「共生」は、広くみられる生物の適応戦略であり、イノベーション (新奇性創出)の大きな源です。アミノ酸合成、酸素呼吸、窒素固定、発光—など新奇形質を共生によって獲得した生物種は枚挙に暇がありません。共生によって単一の生物個体では生存が困難な環境に適応することができるのです。そのため、近年、生態系や生物進化における共生の重要性が認識されてきていますが、最近まで共生生物学は分子・遺伝子レベルの実証的アプローチが困難な研究分野でした。この状況にブレークスルーをもたらしたのが革命的な進歩を遂げているゲノム科学とゲノム編集の技術です。私たちは最先端のゲノム科学的アプローチによって共生を理解する「共生ゲノム学」(Symbiogenomics)を推進しています。共生系を支える分子メカニズムと進化プロセスを明らかにすること、そして、その多様性と共通原理を理解することが目標です。

 私たちの研究室では、実験生物学とバイオインフォマティクスの垣根のない融合的な研究手法を信条としています。次世代シーケンシング(Next-generation sequencing; NGS)データなどの大規模データを用いてバイオインフォマティクス(いわゆるdry研究)を駆使して新たな仮説を提唱する。その仮説を、分子生物学や生化学、顕微鏡観察、ゲノム編集による遺伝子操作などのいわゆる"wet"の研究で検証する。つまり、hypothesis-generating research と、hypothesis-driven research を自在に往き来しながら研究対象を深く追究していきたいと考えています。従って、当研究室に所属する大学院生には、コンピュータとピペットマンの両方を使いこなせるよう教育します。

 当研究室では、共生研究のモデルとして主に昆虫のアブラムシを研究しています。基礎生物学研究所は大学共同利用機関であり、内外の研究者との共同研究が大きなミッションの一つです。私たちは、新規モデル生物開発センターの一員として、私たちが持つ高度なゲノム解析技術やゲノム編集技術を生かして、多様な生物のゲノム研究や機能解析技術の開発の共同研究も積極的に行なっています。