Tanさんの研究をiScience誌に発表 ― ブフネラcls遺伝子が共生の鍵

Kathrine Tanさんを筆頭著者とする研究成果が、iScience誌に掲載されました。本研究では、アブラムシの細胞内共生細菌 Buchnera aphidicola において、唯一保持されているリン脂質合成酵素遺伝子 cls が、共生維持に重要な役割を担うことを明らかにしました。

Buchnera は多くのリン脂質合成遺伝子を喪失していますが、カルジオリピン合成酵素遺伝子のホモログ cls だけが残されています。Tanさんは、2024年に自身が確立したPNA(ペプチド核酸)を用いたノックダウン法によりclsの機能を抑制しました。その結果、Buchnera の数が減少し、形態異常が観察されました。さらに一部では、本来存在すべき共生器官ではなく腸内に誤った局在(mislocalization)が確認されました。また、宿主アブラムシの繁殖能力も低下することが分かりました。これらの結果は、cls遺伝子がアブラムシ–Buchnera 共生の成立と維持に不可欠であることを示しています。

今後はclsが具体的に果たす分子機能の解明が課題となります。また、リン脂質合成遺伝子の大部分を失いながらもclsが保存されているという特徴は、Buchnera だけでなく多くの昆虫共生細菌にも共通しており、本研究は共生細菌の進化過程の普遍性を理解する上でも重要な知見となります。

Tan, K.X.Y., and Shigenobu, S. (2025). Targeted disruption of the cls gene in Buchnera aphidicola impairs membrane integrity and host symbiont dynamics. iScience 28, 113178. https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.113178.