新学術領域 進化制約方向性

新学術領域「進化の制約と方向性」 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~

 私たちは、科研費新学術領域「進化の制約と方向性」(倉谷滋代表)[2017〜2021年度]の総括班の一員として、領域内の大規模解析支援を担当した。

 生物は決してランダムに多様化しているのではない。発生プログラムの変更や形態進化の変更には、不均一さや変わりにくい部分が認められる。しかし従来、生物進化のこのような側面へのアプローチは容易でなく、まともに扱われてこなかった。本研究では、この制約と揺らぎをさまざまなレベルで検出し、個体間差や環境変化による表現型変化など短期的な時間スケールで観察される表現型揺らぎと、長期的な時間スケールで起こる表現型進化の制約や方向性がどのように相関するのかを実験的に解明する。その結果に基づいて制約進化理論の適用範囲の検証と修正を行い、どのような要因が表現型進化に制約と方向性をもたらすのかを明らかにし、最終的には、自然淘汰理論、中立進化理論を包含し、生物進化をより包括的に説明できる理論の構築を目指す。これが領域の目標である。

 本領域で扱う表現型揺らぎと進化的制約を定量的に理解するためには、超多試料トランスクリプトーム解析や非モデル生物のゲノム解析など、従来の進化研究のスケールを大きく上回る大規模なオミクス解析が重要な役割を持つ。私たち大規模支援班はこれらの大規模実験とインフォマティクス解析をサポートすることを目的としている。各班への技術支援のほか、領域内で共有できる解析パイプラインの開発も手がけている。例えば、私たちは数百単位のRNAseqを効率よく行うことのできる技術を確立することに成功した。また、ナノポアシーケンサーやシングルセルRNAseqなどの新しい次世代シーケンシング技術を積極的に取り入れ、領域内で技術と情報を共有できる体制を整えている。